モバイル回線での利用が多くなったインターネットですが、パソコン用の固定回線も捨てられないという人は多いでしょう。でも両方使うと毎月の通信費がけっこうキツイ。そんなとき「固定回線のプロバイダ料金が安くなりますよ」と言われたら、話だけでも聞いてみようかと思うのもムリありません。
パソコンのプロバイダ契約を遠隔操作で変更され、前よりも料金が高くなる、不要なサービスを契約させられる、というトラブルが増えています。ここでは、そうしたトラブルの手口を架空の事例を基にして見ていきます。
プロバイダ契約の電話勧誘に共通する手口
多くの事例に共通しているのは、
- パソコンの設定は遠隔操作で行われた
- 大手の通信業者を名乗っていた
- 覚えのないオプションサービスが追加された
- 解約するには違約金を払えと言われた
などです。これらの事例をまとめて、次のような架空のストーリーを作ってみました。
佐藤さん:でもパソコンの設定とか難しいことはわからないので、今のままでけっこうです。
業者:ご安心ください。面倒な設定作業は、こちらから遠隔操作で行います。佐藤様には当社のホームページからソフトウェアをダウンロードしていただくだけでけっこうです。
それでも佐藤さんは渋りましたが、巧妙なセールストークでプロバイダの変更に同意してしまいました。
業者:ありがとうございます。それでは設定作業の担当者が折り返しお電話しますので、パソコンのスイッチを入れてインターネットにつながる状態でお待ちください。
佐藤さんがパソコンを立ち上げていると、再び電話がかかってきました。
業者:『楽々ねっと』の山田と申します。このたびは誠にありがとうございます。プロバイダ設定にはソフトウェアが必要なので、当社のホームページにある「同意してダウンロード」ボタンをクリックしてください。
佐藤さんが言われるままに「同意してダウンロード」ボタンをクリックすると、遠隔操作のためのソフトウェアがダウンロードされました。
業者:ではソフトウェアを開いて、表示されているIDと暗証番号を読み上げてください。
佐藤さん:はい。IDが「xxxxx」で、暗証番号が「*****」です。
業者:ありがとうございます。それでは、こちらからパソコンを操作しますので、設定が終わるまでしばらくお待ちください。
すると佐藤さんの見ている前でパソコンの画面が動き出しました。自分のパソコンが勝手に動いている様子を不思議な気持ちで見ていると、間もなくプロバイダの設定が終了しました。
業者:これで設定はすべて完了しました。のちほど契約書類をお届けします。誠にありがとうございました。
後日、送られてきた書類を見て、佐藤さんは驚きました。安くなると言われたプロバイダ料金は、以前とほとんど変わらない金額でした。さらに頼んだ覚えのない動画配信サービスまで契約されており、合計すると月々の料金は前よりも高くなっています。
佐藤さんは『楽々ねっと』に電話をかけて解約を申し入れましたが、まずは契約を受けた「代理店」と話してほしいと言われました。佐藤さんはあの業者が代理店だったことを、このとき初めて知りました。
すぐに代理店に電話しましたが、その日は何度かけても話中。翌日ようやく電話がつながったので、料金が説明より安くなっていないことと、覚えのないオプションが契約されていることを理由に解約を申し入れました。
しかし代理店は担当者が辞めてしまったので契約時の状況がわからない、解約する場合は違約金が発生すると言います。オプションの動画配信サービスも販売提携しているだけなので、解約手続きは配信業者に連絡するように言われました。
自分だけで解決するのは難しいと思った佐藤さんは、消費者センターに相談し協力を受けることで『楽々ねっと』のプロバイダ契約と動画配信サービスを解約することができました。
複数の事例をまとめると、だいたいこんな感じのストーリーになります。ここからは佐藤さんの事例を基にして、その手口の詳細を見てきましょう。
遠隔操作でユーザーの手間をはぶく
パソコンの設定をユーザーの代わりに遠隔操作で行うところが、この手口のウマイところです(感心できることじゃありませんが)。
ふつうは「プロバイダを変更しませんか?」と言われても、難しい設定を考えたら「ハイ」とは言えません。でも「設定作業は遠隔操作で行います」と言われたので、佐藤さんは「それならいいかな?」と思ってしまいました。
でもパソコンを他人に遠隔操作させるとプライベートなデータにアクセスされたり、ウイルスが仕込まれる可能性もあります。本来なら信用できる相手にしか許可してはいけません。
契約内容や当時の状況が不明
『電気通信事業法第26条』と同法の『施行規則第22条の2の2第2項』には、
- 料金その他の提供条件の概要について説明しなければならない
- 説明はわかりやすく記載した書面(カタログ、パンフレット等)を交付して行わなければならない
- 役務の提供を受けようとする者が了解したときは電子メールやWebページを書面の代わりに使ってもいい
- 電子メールやWebページの場合はファイルを出力することで書面を作成することができるもの
となっています。
佐藤さんは遠隔操作の準備として、代理店のホームページにある「同意してダウンロード」ボタンをクリックさせられましたね。実はこのボタンの前にはプロバイダ契約に関する内容が掲載されていました。
しかし代理店は説明を行わずページの印刷もさせていません。でも佐藤さんがあとから説明を受けていないといっても、代理店は説明したと主張するでしょう。電話による契約は、言った言わないという問題も起こります。
複数の業者が介在している場合も
この業者は『楽々ねっと』というプロバイダを名乗りましたが、実は代理店でした。
インターネットなどの通信サービスは何年も継続して利用されることが多いので、代理店が得られる報酬も大きめです。そのため代理店の中には、二次代理店や三次代理店に下請けさせることもあります。
例えば佐藤さんに電話をしてきたのが三次代理店だとすると、契約は二次代理店から一次代理店を通してプロバイダに上げられます。最終的には佐藤さんとプロバイダとの契約になりますが、今回のように契約に関するトラブルの場合は、責任の所在がハッキリしなくなります。
また、動画配信サービスは代理店が独自に提携していたもので、プロバイダとは関係ありません。このため動画配信サービスの解約には、配信業者と直接交渉しなければならないことも考えられます。
ユーザーはプロバイダと直接契約したつもりでも、実は複数の業者が関わっていることがあり、これがトラブルの解決をむずかしくする要因にもなっています。
2013年から被害が急増 半分は中高年
国民生活センターによると、遠隔操作によるプロバイダ変更トラブルに関する相談件数は、2012年の187件から2013年には1,596件に急増し、2014年の9月5日には前年の件数に迫る1,537件に達しています。特に2013年の秋ごろの相談件数(青い部分)はまだ291件でしたが、その後から急増していることがわかります。
また、相談件数を年代別に見ると、
50歳代が809件(26%)で最多
次いで60歳代が724件(23%)
40歳代が687件(22%)
30歳代が443件(14%)
20歳代が245件(8%)
その他が221件(7%)
となり、中高年に被害が集中しています。これは勧誘の電話が自宅の固定電話にかかってくるため、世帯主やその妻が受ける機会が多いためでしょう。
「オレオレ詐欺」もそうですが、知らない相手から固定電話にかかってきたときは注意が必要です。最近は下にある製品のように通話を録音し、相手にもその旨を伝える録音機が売れているそうです。
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最大の予防策は電話で決めないこと!
プロバイダ変更の勧誘のほかにも、光やADSLなどの通信回線を他社の回線に乗り換えさせるものもあります。しかし通信サービスはサービスや契約内容が複雑なので、じっくり検討しないとほんとうに得かどうかわかりません。
インターネット契約は急いで変更する必要はまったくないものですから、電話で契約しないようにすることが賢明です。もし魅力的なプランだと思ったら、まずはパンフレットなどを送ってもらいましょう。そのときに資料の郵送を拒むようなら、危ない業者と判断できます。
※この記事を書いている2015年4月時点では、プロバイダ契約など「通信・放送に関するもの」はクーリングオフの適用対象外となっています。しかし被害が急速に増えているため、電気通信事業法等の一部を改正する法律案に「書面の交付・初期契約解除制度の導入」が盛り込まれましたの。通信サービスにもクーリングオフが適用されると、こうした手口は収まっていくかもしれません。