3分でわかる! ARM (アーム) アーキテクチャとは?

 

スマートフォンが普及してから「ARM アーキテクチャ」という言葉を目にする機会が多くなったと思いませんか?

そこで今回は「ARM アーキテクチャとは何か?」に加えて、これからの「インテル vs ARM」の構図についてお話します。

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プロセッサーの基本設計だけを売っているARM

まず「ARM」というのは、イギリスはケンブリッジにある『ARM Holdings(アーム ホールディングス)』というプロセッサーを開発している会社です。

と言うと「なるほど、インテルみたいな半導体メーカーだな」と思ったあなた、ちょっと違います。

インテルはプロセッサーの開発から製造・販売まで行っていますが、ARMが行っているのは「プロセッサーや周辺技術の開発」だけです。完成品としてのプロセッサーを製造・販売しているわけではありません。

もうひとつのキーワード「アーキテクチャ」の意味をe-Wordsで調べてみると、

ハードウェア、OS、ネットワーク、アプリケーションソフトなどの基本設計や設計思想のこと。元来、建築学における設計術あるいは建築様式を表していたのが、転じて、コンピュータ用語として用いられるようになった。

つまり「ARM アーキテクチャ」とは「ARMが開発したプロセッサーの基本設計や仕様」という意味になります。例えば料理のレシピのようなものと言うとわかりやすいでしょうか?

レシピ本は料理の作り方(アーキテクチャ)を販売しているだけで、できあがった料理を売っているわけじゃないですよね。もし出版社に電話して「38ページのオムライスを2人前お願いします」って言っても「自分で作ってください」と言われますよね。

同じようにスマートフォンなどのメーカーはARMから「プロセッサーの作り方や、作ったものを売る権利」、つまりライセンスを買っています。そして必要に応じて各メーカーが独自の味付け(機能など)を加えてプロセッサーを完成させています。

つまりARMは「こういうプロセッサーの”作り方”を考えましたよ」という知的財産権 (Intellectual Property Right) を販売しているだけで、そのライセンスに基づいて製品化されたプロセッサーを一般に「ARM アーキテクチャによるプロセッサ」などと呼びます。

 

 

あんなとこにも、こんなとこにも? ARMは小さな巨人!

現在ほとんどのスマートフォンやタブレットPCには、「ARM アーキテクチャ」によるプロセッサーが使われています。

例えばアップル社がiPhoneやiPadに搭載する「A5Xプロセッサー」、Android OSのスマートフォンやタブレットPCに搭載されるクアルコム社の「Snapdragon」やNVIDIA社の「Tegra 3」なども「ARM アーキテクチャ」を基にしたプロセッサーです。

急成長中のスマートフォンやタブレット市場を制覇しているだけでもスゴイんですが、「ARM アーキテクチャ」が使われているものは他にもたくさんあります。身近なところではデジカメやプリンターなどのデジモノ。テレビ・洗濯機・電子レンジなどの家電製品。自動車の制御装置やカーナビ、オーディオ、医療機器。そしてこれらの製品を作るための産業機械など、例を挙げたらキリがないほど「ARM アーキテクチャ」で作られたプロセッサーは、あらゆる分野のあらゆる製品に組み込まれています。

先進国で生活している限り「ARM アーキテクチャ」と無縁に生きている人はいないでしょう。私たちがふだん何気なく利用しているモノやサービス、そのいたるところに「ARM アーキテクチャ」が利用されています。知らないあいだに世界はARMだらけ! そう考えると、ちょっと怖い気もしますね。

ところで「プロセッサー」というと、真っ先にインテル社を思い浮かべる人も多いですよね?パソコンでは「インテル入ってる」のが当たり前なほど勝ち組のインテルですが、いわゆる「組み込み」の世界ではARMの牙城を崩すのに苦労しているようです。

プロセッサー界の巨人インテルが、なぜ「組み込み」市場では苦戦しているのでしょうか?

鬼のいぬ間に世界制服を果たしたARM

そもそも「ARM アーキテクチャ」を利用する機器の多くは、「限定された機能」を実現するためにプロセッサーを組み込みます。そこでプロセッサーに求められるのは「限定された機能」を実現するだけの性能と消費電力が少ないことです。

例えば駐車場のゲートを動かすシステムを考えてみましょう。自動車が来たことをセンサーで検知して駐車券を発行する。または料金を精算させてゲートを上げる。自動車が去ったら再びゲートを下ろす。ゲートシステムが行うのはこれだけですから、プロセッサーはこれだけできれば十分です。あとは年じゅう動かすシステムですから、消費電力が少ないほうがいいですね。

 

 

対してパソコン用のプロセッサーは幅広い用途に対応する高い性能が求められるため、プロセッサー自体のサイズや消費電力が大きくなります。そして処理性能の高いプロセッサーがパソコンの価値を決定する時代が続くにつれて、インテルのプロセッサーはどんどん消費電力を増やし続けました。

こうしてインテルが盛大に電力を消費してパソコン業界に君臨しているあいだ、ARMはひっそりと静かに、かつ着実に「組み込み」という世界の裏方を征服していきました。

やがてインテルが王国を築いたパソコンは薄利多売の代名詞的な商品になり、代わってスマートフォンやタブレットPCなど、手軽でどこでも使えるモバイル機器がデジモノ市場の主役の座を奪いました。

モバイル機器のプロセッサーに求められるのは、コンパクトなサイズと省電力です。これまで「組み込み市場」に特化してきたARMでしたが、その特性がスマートフォンやタブレットPCなどのモバイル機器にマッチして、一躍表舞台に躍り出ることになりました。

出遅れたインテルの組み込み市場への参入

かつての勢いもなく今後の拡大も見込めないパソコン市場。そこに君臨してきたインテルがARMの急成長を指をくわえて見ているわけはありません。

実はインテルもARMのライセンスは持っていて、過去には「ARM アーキテクチャ」によるプロセッサーを製造していたこともあります。でもインテルは自社のプライドかライセンス料が惜しいのか、あくまで自社開発にこだわるようです。そして2008年、インテルは組み込み市場に向けたコンパクトで省電力な「Atom (アトム) プロセッサー」を開発します。

「Atom プロセッサー」の名前に覚えのある人は、あまりいいイメージがないかもしれませんね。数年前に一時ブームになった「ネットブック」と呼ばれる低価格なノートPCに使われていたのも「Atom プロセッサー」でした。

ネットブックは発展途上国向けに安価なパソコンを提供するという目的で開発されたため、価格の安い組み込み用の「Atom プロセッサー」が利用されました。そのため初めてのパソコンにネットブックを選んだ人は、その処理性能の低さに「パソコンってこんなもの?」とショックを受けたようです。

そんな黒歴史からまだ日が浅いので今でも「Atom プロセッサー」にネガティブなイメージしかない人も多いようですが、今どきの「Atom プロセッサー」は当時とはベツモノと言っていいほど改善されています。

処理性能向上と消費電力の低下 相反する技術の両立

アップルのiPhoneやiPadがきっかけとなって急成長しているスマートフォンとタブレット市場ですが、モバイルに欠かせない長いバッテリーの持ち時間という条件に加えて、パソコン並みの高い処理性能が求められるようになってきました。

そもそもスマートフォンやタブレットは小型のコンピュータそのものですから、Webサイトや動画の視聴など、パソコンと同じ用途に利用されることになります。アプリをインストールすれば用途が増えるのもパソコンと同じです。

そうなると従来のガラケーと呼ばれる携帯電話よりも高い処理性能がプロセッサーに要求されるようになり、スマートフォンやタブレットPCにも2コアや4コア・プロセッサーが搭載され、処理性能はパソコンと変わらないレベルになってきました。

しかし処理性能と消費電力は相反する要素です。処理性能を高めると消費電力が増え、バッテリーの駆動時間を延ばすと処理性能は低くなります。

「ARM アーキテクチャ」は省電力のまま高性能化する方法として、前述の2コア化や4コア化というマルチコア化を採っています。必要に応じて稼働するコアの数を変えて、処理性能をフレキシブルにコントロールできるのがメリットです。但しこの手法はインテルにとっても得意中の得意分野です。

かつて電力を盛大に消費していたインテルはプロセッサーの設計方針を大きく転換し、今では少ない消費電力で高い性能を発揮するプロセッサーを生産しています。そして現在のインテル・プロセッサーには1つのコアで2系統の処理が可能な「ハイパー・スレッディング機能」や、停止中のコア分の電力を稼働中のコアに回して処理性能を向上する「ターボ・ブースト機能」などで、効果的な省電力と高い処理性能を両立しています。

2013年にインテルが発売する「第4世代 Core プロセッサー」は、同じ処理性能なら消費電力は「第3世代 Core プロセッサー」の約半分にまで減少すると言われており、タブレット用のプロセッサーも登場するようです。また既にAtom プロセッサーを搭載するスマートフォンも登場しているので、2013年はIntel vs ARM戦争が本格化する年になりそうです。

ARMにとっては裏方の組み込み市場からスマートフォンやタブレットPCという晴れの舞台に踊り出られたチャンス。インテルにとっては停滞するパソコン市場から急成長中のスマートフォン、タブレットPC市場に食い込むチャンス。ここで東西の横綱が同じ土俵でがっぷり四つに組み合う展開になりました。

それはまた開発から販売まで一社独占のインテルが勝つか、それとも開発・生産をパートナー企業と分業するARMが勝つか、どちらのビジネスモデルが生き残るかの勝負とも言えます。ハッキリした決着がつくかどうかはわかりませんが、私たちユーザーにとってはインテルの参入でより良い製品が生まれ、選択肢が増えることは歓迎できますね。